21)薬の飲みかたで効き目は異なるのでしょうか

薬の飲みかたで効き目は異なるのでしょうか

「薬はどうして飲むのが適切なのでしょうか?」との項で、一般的な薬の飲み方と薬を飲む時間について説明しましたが、もう少し追加してみましょう。
  1. 水は薬を飲みやすくするためではなく、効き目を発揮しやすくするために飲む。
     薬を水で飲むのは、薬を飲みやすくするためだと、思い込んでいる人が多いようです。しかし、水の効用はそれだけではありません。
     水といっしょに薬を飲むことで、薬は胃の中で水に溶け、吸収されやすい形になります。錠剤やカプセル剤を、水なしでゴクリと飲み込む人がいますが、こうした飲み方をすると、胃の中で薬は溶けにくく、薬の効き目も遅くなったり、低下したりします。それどころか、薬を水なしで飲むと、薬が食道を通過するときに食道の粘膜に直接付着したりして、ヘタをすると、食道炎という予期せぬ副作用を招きかねません。とくに、胃の活動が弱くなったお年寄りの場合は、胃の中で薬が一ヶ所に固まることにより、胃潰瘍を起こすことがありますので注意が必要です。

 

薬は水かぬるま湯で服用するのが原則ですが、鎮痛剤など、胃を荒らしやすい薬は、牛乳で飲むといい。
 鎮痛剤は、副作用として胃を荒らすことがあるので、胃の弱い人の中には鎮痛剤を飲むと、かならず胃が痛くなるという人がいます。そのような人は、副作用対策として、牛乳といっしょに飲んでみるとよいでしょう。牛乳は胃の中で一部の薬の吸収を阻害してしまうので、いっしょに飲んではいけない場合があるといわれています。
 しかし、「非ステロイド性消炎鎮痛薬」のインドメタシンファルネシルという薬物は脂溶性が高く、血液中に移行するためには胆汁が必要で、牛乳を一緒に飲むと吸収がよくなり、効き目もよくなります。このような消炎鎮痛薬は通常「食後」の服用が一般的です。食事を抜く場合や、どうしても食事が取れない場合には、牛乳1本程度を飲んでから、薬を飲むとよいでしょう。

 牛乳と一緒に飲んではいけない薬は、一部の「抗生物質」です。牛乳にはさまざまな栄養素が含まれており、とりわけカルシウムが多く含まれていることはご存知でしょう。テトラサイクリンという抗生物質は、牛乳といっしょに飲むと薬の成分が牛乳のカルシウムと結合して、吸収が非常に悪くなってしまいます。その結果、薬の血中への移行濃度が、ふつうの水を飲んだ場合の3分の1から4分の1以下になってしまうことがあります。
 抗生物質は一定の必要量の血中濃度が維持されないと効果を発揮しないので、テトラサイクリンを牛乳といっしょに飲むことは避けましょう。

 

薬は水かぬるま湯で服用するのが原則ですが、鉄剤以外、薬はお茶で飲んでもいい。
 一昔前までには、「貧血用の鉄剤は、お茶で飲むな」とよく言われたものです。これは、お茶に含まれるタンニン酸という成分が、鉄とくっついて沈殿して吸収されなくなり、造血の効果がなくなってしまったからです。しかし、ふだん家庭で飲んでいるくらいの緑茶なら、必要量は吸収されるので、それほど神経質になることはありません。
 まして、最近では薬も進歩してきましたので、現在医者にかかって処方してもらっている鉄剤ならば、タンニン酸と鉄がくっつかないよう工夫がちゃんとなされています。
 それでも、まだ気がかりであれば、お茶を飲むのを、鉄剤を飲んでから1時間後にすればよいでしょう。鉄剤は胃にはいってから長くても30分以内には小腸に送られ、吸収されますから心配はありません。 

 

「1日3回」の薬は、とくに指示のないかぎり、食後30分以内に飲むのが原則。
 口から飲んだ薬は、胃や腸で吸収されますが、このとき空腹状態かどうかで、同じ薬でも吸収のされ方が違うため、結果的には、薬の効き方も違ってくることになります。
 それでは、薬を飲むのは空腹のときがいちばん効き目が高くなっていいのではないか、と思う人がいるかもしれませんが、決してそうではありません。
 最近では食物が胃腸に存在した方が吸収率が良くなる薬もあります。また、空腹で胃の中が空っぽの状態のときに薬を飲むと、胃壁に薬が直接ふれ、その刺激により胃壁が障害を受けてしますケースもあります。そのような薬の場合は、食物が胃の中に残っていて、薬と食べ物が混じり合う状態のほうが胃のためにはいいわけです。
 一般に、薬をいつ飲むかという服薬時間が、「食前」「食後」「食間」などと、食事時間を基準に指示されていることが多いのは、このような吸収の善し悪しなどを考え、効き過ぎや効かなくなったりするのを防ぐためです。ですから、「1日3回」というような薬は、とくに指示のないかぎり、「1日3回、毎食後30分ごろに飲む」と思えば、十中八九まず間違いはありません。

 

食事の不規則な人は、「食前」「食後」の指定にこだわらず、薬を飲む時間を決める。
 多忙な日々を送っている人の場合、食事時間もどうしても不規則になりがちです。このような場合、「食前」とか「食後」という指定のある薬の場合、いつ飲んだらいいかと頭を悩ますこともあるでしょう。食事の前後にかならず飲むようにしていても、食事を抜いてしまったために、薬まで飲みそこなってしまったという話もよく耳にします。
 一般に薬を飲む時間が食事時間と関連づけて指示されていることが多いのは、副作用や吸収度の違いがあるからです。たとえば、1日に3回服用する場合、食事どきを目安にすれば飲み忘れが防げるといった配慮も、その指示の一つの根拠となっています。
 実際、1日に3回の食事時間がだいたい決まっているような人の場合、食事時間に合わせて薬を飲めば、多少のずれがあっても、ほぼ一定の間隔で薬を飲むことになります。身体に吸収された薬の量が極端に増え過ぎたり減り過ぎたりせず、それだけに薬の効き方もよくなるわけです。ですから、食事時間の不規則な人は、「食前」「食後」といった指定にこだわらず、6時間おきとか、12時間おきといったように薬を飲む時間を決めるのも一つの方法です。食事時間に合わせて、薬を飲むのが不規則になるより、そのほうがむしろ適切といえます。 

 最後になりましたが、薬を飲む場合はつらくても起きて飲んでください。錠剤やカプセル剤を寝ながら飲むと、どうしても胃の中にはいるまでに時間がかかってしまいます。また、最悪の場合、食道の粘膜にピッタリはりついてしまい、そこでカプセルや錠剤が溶け出し、強い刺激のため炎症をおこしたり、潰瘍を作ったりします。また、寝たきりの患者さんに薬を飲ませる場合もできるだけ上体を起こして飲ませてあげる工夫も必要でしょう。